2017
09.16

世界的な廃棄物処理の専門家が若い女性に勧める理系キャリアの道

Blog, 地球環境, 産業廃棄

キャシー・ルソー 在日米国大使館広報・文化交流部インターン

 米国大使館は6月15日、ジョージア大学工学部准教授のジェナ・ジャンベック博士を招き講演会を開催しました。ジャンベック博士は、世界の廃棄物管理とプラスチックごみ汚染について専門に研究しています。海洋ごみの問題の啓発を目的としたこのプログラムには、環境問題の専門家から小学生まで、海洋ごみが及ぼす影響に深い関心を持つ幅広い層の人々が参加しました。ジャンベック博士は廃棄物管理の研究のほかに、環境問題に対する啓発や、若い女性の科学・技術・工学・数学 (STEM) 分野への進出を促す活動もしています。講演会に先立ち、アメリカン・ビューはジャンベック博士から、環境問題に関して若者を教育する重要性について話を伺いました。

「私はごみの専門家」

 ジャンベック博士は、固形廃棄物問題と、こうした廃棄物が海に及ぼす影響の研究に献身的に取り組んできました。最初は土壌の問題を研究していましたが、常に海に関心を寄せていました。固形廃棄物管理で人間が関わる部分は、ジャンベック博士にとって身近な問題でした。「私は人間の行動の理由に常に関心を持ってきました」と博士は言います。「私たちの選択、すなわち何を購入し、何を消費するかにより、発生する廃棄物が変わります」。博士は自分のことを「ごみの専門家」と呼びますが、本当は「人間の専門家なのです。なぜなら、この問題には人間が密接に関わっているからです。人間には、社会に変化をもたらす選択をする力が備わっています」

世界中の若者に働きかける

 科学の道に進むように若者に働きかけるために重要なのは「良き師」である、とジャンベック博士は言います。子どものころ最も影響を受けたのは、マデレイン・レングルの小説“A Wrinkle in Time”の架空の登場人物だったそうです。「物語の中に出てくる子どもたちのために、研究室で働く母親が実験用バーナーでシチューを作るのです。『母親と科学者を同時にこなすなんてすごい!』私はそう思いました」。これがきっかけで、博士も科学の道に進むと同時に、家庭も持とうと考えたそうです。

 ジャンベック博士は、環境について学ぶには、野外活動が最適と考えています。「(「不思議の国のアリス」のように)ウサギの巣穴に入り、好奇心にまかせて冒険しましょう」と博士は言います。「世の中の動きに関心を持ち、自分がどのように貢献できるか考えるのです」

 講演後の質疑応答では、一人の高校生が、廃棄物問題を若者に教えるにはどうすればいいか質問しました。博士は、現実の生活と関連付けることも1つの方法だと提案しました。「最終的に廃棄物が周りの環境に入り込むと、我々の生活に影響が及びます。その関係を示すのです」

カギは根気

 ジャンベック博士は、特に若い女性がSTEM分野に進むよう後押ししたいと考えており、女性がこの分野で働くことが普通になる日が来ることを望んでいます。インタビューで博士は、粘り強さと根気のおかげで成功できたと説明しました。最初は工学と数学にてこずりましたが、努力してやり通したそうです。「すぐに良い結果が出ると期待する人が大勢います。女性の中には『私は他の人に比べてあまりできが良くない』と考える人もいますが、大丈夫です。それでも、かなり成功できます」

 カリフォルニア大学バークレー校の学生からは、なぜSTEM分野を専攻したのかという質問が出ました。博士の答えは、廃棄物管理に大いに興味を持ったからだ、というものでした。ほとんどの会合で、女性の参加者は彼女1人だけですが、「存在感を示すこと」が大切だと言います。自分の取り組みを他の女性に見せることが、彼女たちを勇気付けるために重要であると強調しました。「誰もが困難に直面しますが、頑張れば乗り切ることができます」

人に力を与える

 ジャンベック博士の活動は、学生がSTEM分野に進むのを奨励するだけではありません。海洋ごみを追跡する携帯アプリMarine Debris Tracker (MDT)の共同開発にも取り組みました。このアプリにより、世界中どこでも誰でも、ごみを見つけたときにはそれをレポートできます。拾ったごみについてもレポートできるので、アプリのユーザーが競ってごみを拾うことにもなります。博士とそのチームは、アプリを通して入ってくるデータをアップストリーム・ソリューションに利用しています。このアプリは、世界各地の若者の教育に生かすこともできます。「アプリを使って一般市民も科学者になれる」と博士は言います。

 環境問題について教える中学校の教師が、ジャンベック博士の講演会に参加し、生徒を授業に積極的に参加させる方法についてアドバイスを求めました。この質問に対し博士は、MDTを活用すれば生徒の積極的な参加を促すことができると答えました。

「見えないものを見えるようにする」

 ジャンベック博士の人生は、2014年に13人の女性と共に大西洋横断の探検航海に出て大きく変わりました。全ては、アップル社が開催する「世界開発者会議」(WWDC) で流されたプロモーションビデオ「人生に不可欠なアプリ」(Apps We Can’t Live Without) で、MDTが取り上げられたという知らせを受けたことから始まりました。人生に欠かすことのできないアプリについて語る人たちを特集したビデオで、環境問題専門家のエミリー・ペン氏がMDTに言及したのです。「とても感動しました」とジャンベック博士は言います。

 ジャンベック博士はペン氏に連絡を取りました。そして、環境問題の啓発のため、複数の女性グループが航海に出る「eXXpedition」プログラムのことを知りました。航海が始まる6週間前、博士は「定員に空きがあるけど行きませんか」というメールをペン氏から受け取りました。冗談のつもりでそのメールを夫に転送すると、すぐに「行くべきだ」と返信がありました。「許可をもらわなければならない全ての人たちからオーケーをもらいました。まるで宇宙がドアを開け、そこに押し出されるような気持ちでした」

 ジャンベック博士は「eXXpedition」プログラムの使命「見えないものを見えるようにする」を熱心に支持しています。廃棄物問題に対する世の中の人たちの意識を高め、「よりクリーンで健康的な将来につながり、既存の枠にとらわれない行動するよう女性を促すことができるから」です。

未来に向けた連携

 ジャンベック博士は、今回の国務省主催のプログラムで、日本だけでなくアジアの他の国々も訪問し、海のプラスチックごみを減らす方法について若者たちと意見交換しました。講演会で博士は「eXXpedition」プログラムに参加したときの映像を見せ、一般の人々でもこの問題に関与できることを示しました。博士は、人が社会に変化をもたらしているのを目にすれば、他の人も刺激を受けて同じ行動を取ると信じており、ビデオを見た人たちの前向きな反応に満足していました。

 「招待を受けて、さまざまな人たちにお会いでき、素晴らしい時間を過ごしました」とジャンベック博士は言っています。特に、インドネシアとフィリピンで固形廃棄物管理に関わる人の大半が女性であることに感銘を受けたそうです。「素晴らしいです。アメリカではあり得ないことで、私の周りで固形廃棄物管理に携わっている人は全て男性です」。女性のSTEM分野への進出を促進し、海洋ごみの問題について情報交換する機会を与えれくれたこのプログラムに、博士は感謝していました。