2017
06.03

イスラエルとパレスティナ

危機管理, 紛争

 17日行われたイスラエルの議会選挙は、中道左派と労働党との統一会派のシオニスト・ユニオンがリードしているとされた事前の予想とは反対に、ネタニヤフ首相が率いる右派リクードが多数を占めるところとなった 。
 しかし、リクード党の議席数は30で過半数には達しなかったようなので、少数党と連立を組むことになりそうである。強固派の右派勢力を取り込むことが予想されることから、パレスティナとの和平交渉は頓挫し、オバマ政権との関係はさらにぎくしゃく することになりそうである。現に投票日前日、ネタニヤフ首相はパレスティナ国家は実現させないと、恐ろしい形相で語っている。 我が身を守るため本性(素)が出た恐ろしい形相がテレビカメラにとらえられている。
 この選挙結果を受けて最も危惧されるのは対イラン問題である。もしも、リクード党が強固派の右派勢力と組んだ時には、イランの核施設への空爆は避けられそ うもない。核問題協議が山場を迎えようとしていることは承知の通りであるが、その成り行き次第によっては、そう遠くない内、 ブラッド・ムーンまでに空爆が実施されることにな りそうである。
 ネタニヤフ首相・米議会で演説」に記したように、ネタヤニフ首相は米国の議会でオバマ政権が進めているイランとの核問題交渉を強く非難し、「このまま交渉が続けられるようなら、イランに対して制裁強化の道を選ぶことになるだろう」と、大規模空爆の実施を予告している。
 彼が選挙期間中にも関わらず米国に出向いて、なにゆえこれだけの発言をしたのかというと、次のような裏事情があったからである。 日本のマスコミはまったく伝えていないが、実は昨年、イスラエル政府はイランの核開発施設を空爆する寸前のところまでいっていたのである。
 それが実施されなかったのは、オバマ大統領が「イランを空爆するなら、イスラエルの戦闘機の撃墜命令を出す」とイスラエルにくぎを刺したからである。このニュースはクウェートのアラブ語新聞「アル・ジャリーダ」が報じているものなので 、間違いない情報だ。
 そのため、ネタニヤフは米国議会で声を大にして先制攻撃を予告し、次に攻撃を実施する時に、オバマから再び脅しをかけられないように先手を打ったというわ けである。どうやらこれから先、イスラエルの連立政権の行方とネタニヤフの発言からは、一段と目が話せなくなってきそうである。 状況次第で、新たな中東戦争の狼煙 (のろし)が上がることになるからだ。

パレスティナ国家実現は絶望的に

図①1967年時のイスラエルとパレスティナの領土区分

図② 現在はイスラエルの入植によってパレスティナの領土は、虫に食われたように小さくなり、ちりぢりになってしまっている

 イスラエル選挙の最終日、ネタニヤフ首相は「私が政権を担うことになるならパレスティナ国家は実現させない。入植地での住宅建設はこれからも続ける」と発言している。選挙の先行きに不安を感じた彼は、右派勢力を取り込むために言ってはならない禁じ手を使ってしまったのだ。
 これで、パレスティナとの和平交渉は事実上ストップとなり、彼が政権を担う限りパレスティナ人の長年の願いであった国家の樹立は実現不可能となってしまった。読者の多くは、今パレスティナ領土がどのような状況になっているのか、ご存じない方もおられるかと思われるので、簡単に説明しておくことにする。上の図 ①が1967年当事のパレスティナとイスラエルの領土区分であった。1947年以来の4回にわたる中東戦争によって、イスラエルがパレスティナから 奪い取った地中海沿いの領土が薄青色の部分である。
 パレスティナは領土を奪われただけでなく、ガザ地区と分離されてしまったのである。それから約半世紀が経過した現在はさらにひどい状況となっている。
 ヨルダンに接した東側の領土がイスラエルによって 不法に入植され、次々と削り取られて小さくなり、図②のような虫食い状態となってしまっている。
 この入植問題は国際社会からは違法とされているものの、イスラエルは意に介せず今もなお入植を続けており、パレスティナ人の住む土地は、まさに虫に食いちぎられた葉っぱのよう な状態と化している。イスラエル政府は国際社会からの批判などどこ吹く風とばかりに、 国民が入植しやすいように、入植地の不動産価格や税金を低くする措置をとって、入植政策を押し進めている。
 虫食い状態にされ、切り離された土地に住むパレスティナ人たちの生活水準は、入植地のイスラエル人に比べるまでもなく低く、高い失業率の中、極度の貧困生 活を送っている。こうした経緯を見てみると、ここ半世紀にわたるイスラエル国家がパレスティナ人に為して来た所業は、大変なカルマ となって我が身に戻って来ることになりそうである。 おのれさえ豊かで平和な暮らしが出来れば、隣人がいかに苦しもうが構わないというのでは、 因果応報のカルマの掟から逃れることは出来そうもない。
 イスラエル人は今回の選挙において、自らの意思で悪因を為す政府を選んだのだから仕方ない。 半世紀を超すパレスティナ人たちの苦しみや悲しみ、さらには、中東を戦渦に巻き込む危険性を考えれば、彼らが背負うことになるカルマは小さなものではなさそうだ。 旧約聖書のマタイ伝が伝えるハルマゲドン(最終戦争)で、イスラエルがどのような状況に置かれるかを知ったら、そのカルマの大きさが分かろうというものである。