2017
09.09

(27)世界でも北朝鮮ほど情報を徹底管理している国はない!

北朝鮮, 半島問題, 危機管理

 これからは菅沼光弘氏の講演である。菅沼氏は、公安調査庁と言う役所に入ってから今日に至るまで、朝鮮半島の問題にかかわりを持ってきた。本当のところ、北朝鮮の実態についてはさっぱりわからないという。北朝鮮ほど情報の流出を管理、阻止している国はないからだという。
 隣の中国でも、通常は中国共産党、あるいは人民解放軍と言うようなところの情報は全く漏れてこない。文書も出ない。しかし、時にはいろいろな高官が亡命して、そのお土産に必ず中国中枢の情報を持って出る。また、多くの中国共産党幹部の子弟はアメリカに留学している。今の習近平総書記でも、その周辺の人達の中にはアメリカで生活している人も沢山いる。そういう関係があるので、いろいろな形で亡命を誘惑したりというようなことで、中国の実態がよく分かるわけである。本当のところ、今、習近平総書記が何を考えているのか、アメリカは正確に認識している。
 しかし、北朝鮮は全く良質な情報が出てこない。北朝鮮について、専門家と称する人たちがいろいろなことを書いているが、その分析の根拠になるのは、朝鮮中央通信とか、当の機関誌である「労働新聞」とか、人民軍の機関誌である「人民軍」とか、その他の北朝鮮が公式に発表した文書や出版物である。
 共産党の国は、党中央に必ず宣伝部と言うのがある。中国共産党の中央宣伝部は、中国のすべてのメディア、最近ではインターネットその他、全てをコントロールしている。したがって、そこから流れてくるものは、現在の中国政府の意向に沿った情報ばかりである。それと同様に、北朝鮮の場合も、労働党中央に宣伝扇動部と言うのがあって、全てのメディアの伝えるものはそこを濾過して流されてくる情報だということになる。
 今、北朝鮮から亡命する人が沢山いる。しかし、殆どの人はランクが高くない人たちなので、これらの人達のもたらす情報によって中国と北朝鮮との国境あたりの人民の生活状況とかはわかるが、平壌の中枢、例えば、金正恩委員長の周辺で何が議論されているのかと言ったことや、金正男の問題でも、本当に北朝鮮が組織的に殺したのか、本当のところはよく分からないわけである。
 北朝鮮のイデオロギーはチュチェ(主体)思想と言われているが、チュチェ思想を確立したファン・ジャンヨプと言う人が韓国へ亡命した。この方は金日成主席と一緒に、中ソ対立の中で北朝鮮独自のイデオロギーを確立した人で、金日成時代には党中央書記の一人であり、大変偉い人だった。本来は日本滞在中に亡命するはずだったが、日本では朝鮮総連のガードが非常にかたかったので、中国へ行ってから韓国大使館に逃げ込んで亡命した。
 菅沼氏はファン・ジャンヨプと何回か会って、北朝鮮の内情について聞き出したという。しかし彼が話すことには限界があった。彼が言うには、金日成がなくなって金正日が後継者になったけれど、金正日と意見が合わなかったのである。つまり、何がチュチェ思想かと言うことについての解釈が合わないのである。共産党の国は、絶対権力者が亡くなると、当のイデオロギーの解釈権を巡って激しい権力争いが展開するという。ファン・ジャンヨプ氏は自分がチュチェ思想を作ったので、自分か解釈することが金日成時代からのチュチェ思想の神髄だと思っている。ところが、後継者の金正日は、自分が解釈するのがチュチェ思想だという。つまり、解釈権を独占しようとしたわけである。
 こういうことで、ファン・ジャンヨプ氏は、粛清されるであろうと予感して亡命したのである。