09.08
<電磁パルス攻撃>広範インフラ防護急務 技術・財政に課題
政府が防護策の本格検討に入った「電磁パルス(EMP)攻撃」は、ひとたび発生すれば被害が日本全土の広範囲に及びかねない。北朝鮮がEMP攻撃能力に言及し、政府は対応の加速化を求められた格好だ。しかし、発電所、通信網、交通網など幅広いインフラを防護する技術は確立されていない。包括的な対策をまとめるには技術的、財政的な課題も多く、時間がかかる。
元陸上自衛隊化学学校長の鬼塚隆志氏は「地上30~400キロの高高度で核爆発が起きた場合、半径600~2000キロの範囲で交通や医療などインフラが機能しなくなる恐れがある」と語る。
高高度での爆発の場合、建物などは破壊されず、直接的な死傷者は限定的とされる。その半面、インフラ機能の停止が長引けば、衛生環境の悪化で多数の死者が出かねない。
EMPは1940~60年代に米国や旧ソ連による地上核実験で発生が確認された。米国が62年に太平洋上で実施した核実験では、約1400キロ離れたハワイで停電が起きた。
鬼塚氏によると、米英ソが63年に地上核実験を禁じる部分的核実験禁止条約に調印し、EMPへの関心は一時薄れたが、近年は電子化やネットワーク化が進む社会の弱点を突く攻撃方法として改めて注目され始めた。北朝鮮は既にEMP攻撃の技術を得ているとの見方もあるという。
しかし、日本のEMP防護策は米国に比べて遅れている。防衛省が2018年度から始める研究では、発生装置を搭載した弾頭部分を開発し、室内実験で防護策に必要なデータを収集する予定だが、この研究は基礎的なものに過ぎない。「発電所や鉄道など重要インフラの防護まではまだ想定できていない」(防衛省幹部)のが実態だ。
菅義偉官房長官は7日の記者会見で、EMP対策について「速やかにまとめるのは当然だ」としつつ、「表に出すことは避けるだろう」と述べ、水面下で検討を急ぐ考えを示した。【秋山信一、高橋克哉】