2017
08.31

米債務上限引き上げ「失敗」に備え始める金融業界

Topic, 世界経済

[ワシントン 30日 ロイター]

 米金融業界では、連邦議会が法定債務上限引き上げに失敗する事態への警戒感が広がり、緊急対応策をまとめる動きが出ている。

 現行で19兆8000億ドルと定められている債務上限を引き上げることができないと、米政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、世界中の金融市場に衝撃を及ぼしかねない。

 政策担当者はハリケーン「ハービー」の被害地域に救済措置を提供すると約束しており、債務上限を巡る政治的対立はこうした支援法案に向けた合意の中で解決されるとの期待は高まっている。しかし問題は、シャーロッツビル事件に関するトランプ米大統領の発言後の政界の険悪な雰囲気がなお続いていることだ。

 銀行や投資家、格付け会社などを代表する何人かのロビイストはロイターに、与党共和党の深刻な内部分裂や予測不能なトランプ氏の存在により、10月の期限までに債務上限引き上げが合意されないのではないかとの懸念を示した。 米銀行協会(ABA)のロブ・ニコルズ最高責任者は「リスクは信じられないほど高い。デフォルトに伴う経済的な影響は途方もない。 われわれは情勢を注視しており、9月いっぱい必要に応じて動いていくつもりだ」と語った。 トランプ政権や有力政治家は債務上限引き上げ実現を約束しているものの、既に市場の一部には緊迫感が漂う。ゴールドマン・サックスの試算では、上限引き上げに失敗すれば、連邦政府は米国内総生産(GDP)の3─4%相当の歳出削減を迫られ、経済に重大なマイナスをもたらす。 さらに債務上限引き上げ協議が決裂寸前までもつれた2011年には、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)グローバル・レーティングスが米国のソブリン格付けを史上初めて引き下げ、米国株の時価総額が2兆4000億ドルの消失した。 こうした中で米証券業金融市場協会(SIFMA)は過去の緊迫局面で策定した緊急対応計画を再び引っ張り出し、金融機関と協議しながら今後デフォルトでボラティリティが極端に高まった場合への準備を進めている。

 具体的に目指すのは出来高急増に対処できるようなシステム態勢と人員、資金の確保だ。

 米国債のデフォルト時の取引規定などを点検しているのは米国債市場慣行グループ(TMPG)で、SIFMAもこの点について計画を練っている。SIFMAのマネジングディレクター、ロバート・トゥーミー氏は「われわれは債務上限が引き上げられると信じているが、それでも万が一のために備える必要がある」と説明した。

市場の疑念

 ムニューシン財務長官は議会に対して9月29日までに債務上限を引き上げるよう要請しており、先週には引き上げ実現について「100%自信を持っている」と語った。共和党のマコネル上院院内総務とライアン下院議長も、米国はデフォルトにならないと約束する。

 しかし市場参加者は、ムニューシン氏やマコネル氏が共和党を結束させることができるのか不安視している。共和党保守派が歳出削減とセットでない限り債務上限引き上げには賛成しない方針を表明しているためで、トランプ氏やムニューシン氏、マコネル氏らは自ずと引き上げ実現に向けて民主党の支持を当てにする公算が大きい。

 トランプ氏の存在も波乱要素になっている。ある銀行のロビイストは、シャーロッツビル事件でトランプ氏がネオナチをはっきり非難しなかった上に何人かの共和党議員を攻撃していることを考えると、債務上限引き上げで同氏が与党内の合意を形成できるか疑念が出てくる、と開設した。

 金融業界幹部は、人員不足の米財務省がまだ銀行や投資家との会合を開いていないことも心配な材料として挙げた。オバマ前政権はこうした会合を利用し、金融市場の動揺を鎮めてきた。

 それでもロビイストの話では、9月4日のレーバーデーを過ぎればトランプ政権側からのメッセージが聞こえてくると期待されている。 (Pete Schroeder、Michelle Price記者)