04.05
中国に狙われた「段ボール」、年末商戦にも影響か?
年末商戦好調で拡大の勢いが止まらないネット通販。それに伴い宅配便の個数が伸び、「段ボール箱」の個数も増える。通販・宅配・引越用の段ボール箱の需要は直近5年間で約6割伸び、需要も、箱の生産も、原紙の生産も右肩上がり。「紙離れ」に悩む製紙メーカーにとって“最後の希望”だ。リサイクルの優等生で国内の回収率は96~97%に達するが、それを生産量世界一の中国から狙われている。
経済ジャーナリスト 寺尾 淳
年末商戦真っ只中、「段ボール」のニーズも拡大中
日本でも世界でも年末商戦たけなわだ。
アメリカでは11月22日の感謝祭が明けた翌23日の「ブラックフライデー」から26日の「サイバーマンデー」を経てクリスマスまでは、景気を左右する年間最大の消費イベントだ。「好景気に陰り」と言われながら、全米のブラックフライデーのオンライン売上高は前年比23.6%増の62億米ドル(約7000億円)、サイバーマンデーのオンライン売上高は前年比19.7%増の79億米ドル(約8900億円)、11月1~26日トータルのオンライン売上高は前年比19.9%増の585億米ドル(約6兆6000億円)で、いずれも過去最高を更新した(Adobe Systemsの集計)。
中国では一足早く11月11日の「独身の日(光棍節)」から始まったが、その日の「アリババ」など主要ECサイトの取引総額は日本円換算5.3兆円で過去最高を更新した。
そして日本ではもちろん、12月は昔からお歳暮のシーズンで、ボーナスの支給日、クリスマスを経て大みそかまで、小売業にとって書き入れ時になる。日本でもアマゾン・ジャパンが12月7日午後から11日未明まで「サイバーマンデー」セールを実施した。
この年末商戦に限らず、アマゾン・ドットコムやアリババなどネット通販大手の売上増はとどまることを知らない。
リアル店舗と違ってネット通販は商品の配達がついて回る。その成長に伴って宅配便も成長し、宅配便で運ぶのに必要な梱包材「段ボール」も需要が伸びた。宅配便のトラックはより頻繁に走り回り、より多くの段ボールが使われる。ネット通販、宅配便、段ボールは「一蓮托生」で成長している。
段ボールは9割がリサイクル
段ボールの需要拡大というと、環境問題を考えるかもしれない。だが、「ネット通販の隆盛→段ボールの利用拡大→パルプ原料の森林の伐採→植物の二酸化炭素吸収量が減る→地球温暖化が進行」という論法は、リサイクル分を差し引いて考える必要がある。日本では原料のほとんどがリサイクル資源でまかなわれ、その分、森林伐採を食い止めている。
段ボール原紙はもともとは木材を伐採して加工したパルプが原料だが、全国段ボール工業組合連合会(以下、連合会)によると、現在は古紙のリサイクル利用が9割以上を占め、木材パルプの使用比率は1割以下に減った。「新しい段ボールは、古い段ボールを溶かし、リサイクルしてつくられる」と言っても、決して間違いではない。
段ボールの製造は、まず製紙工場で「ライナー」と「中芯原紙」が抄造される。ライナーは外装の部分で、中芯原紙は外から見えない内部で箱の強度を増すための紙だ。
次の工程で中芯原紙をライナーでサンドイッチして段ボール原紙がつくられる(ライナーが片面だけのものもある)。組み立てれば箱になるように型をくり抜き、必要な個所を接着する。
たとえば引越の前に業者が持ってくるのはこの平たい形のダンボールで、ガムテープを貼って組み立てて引越の荷造りをする。産業用の金属部品のような比較的重い物を入れる段ボール箱は、接着剤やガムテープではなく金具で止める。
データでわかる、“最後の希望”ダンボール
梱包材として産業界から家庭までひろく普及した段ボール。連合会が箱として組み立てる前の状態で面積を測った統計では、2017年に全国で年間142億㎡が生産された。リーマンショックで2009年に126億㎡まで落ち込んだが、その後は右肩上がりで増え続け、2016年にリーマンショック前のピークの2007年を超えた。連合会は2018年の全体の需要を144億㎡と予測しており、2009年比では14.0%増えた計算になる。
連合会は実際に段ボール箱として利用された実績(製箱投入実績)も発表しており、2017年は面積換算102億8400万㎡だった。この数字も右肩上がりで2012年比11.9%増。用途別では「通販・宅配・引越用」は2017年、5億2600万㎡で全体の5.1%を占めたが、その伸び率は2012年比で約6割の59.8%増だった。全体の伸びをはるかにしのぐ成長ぶりで、ネット通販が段ボール需要を押し上げていることがこのデータでわかる。
連合会は2018年の需要予測で、「通販・宅配・引越用」はネット通販を中心に前年比8%以上の伸びをみせると見込んでいる。
段ボール需要の成長は、かつて稼ぎ頭だった新聞用紙も印刷用紙も大きく落ち込み「紙離れ」と言われて久しい製紙業界に、一筋の光明をもたらしている。
経済産業省の2017年の生産量統計によると、新聞用紙や印刷用紙などの「紙(洋紙)」はリーマンショック前は1900万トン前後で安定していたが、2017年は1458万トンで2012年比3.3%の減。10~20年前はIT機器の紙のマニュアルという“特需”があったが、現在はPDFファイルのマニュアルやオンラインマニュアルにとって代わられた。
化粧箱や段ボールなどの「板紙」は1193万トンで、2012年比9.5%増。段ボール原紙(ライナーと中芯原紙の合計)は968万トンで板紙全体の81.1%を占め、その成長率は2012年比で12.0%増。年平均2.4%増だった。
2012年と2017年を比較すると、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど「衛生用紙」が2.3%増、プリンター用紙など「情報用紙」が1.8%増、百貨店の包装紙など「包装用紙」が0.7%増と増えたジャンルもあるが段ボール原紙の12.0%には遠く及ばない。紙と板紙を合わせた生産量2651万トンのうち36.5%と3分の1以上を占め、例外的な成長率をみせる段ボール原紙は、製紙業界にとって“最後の希望”と言ってもいい。
今の設備稼働率はフル稼働に近く、生産量トップの王子グループは2019年に段ボール原紙工場を新設すると発表した。生産量第3位の日本製紙は2017年10月に「段ボール研究室」を設置しR&D投資を積極化している。