2017
08.25

テレビ業界「ジリ貧」視聴率競争、消耗する制作現場の実態

media, Topic

8/25(金) 6:00配信

 

● 視聴率競争が激化するなか 朝の時間帯に起きた「異変」

 「血に飢えた視聴者」――。テレビ局の制作現場でよく聞かれる言葉だ。何をやれば高視聴率が取れるのか。確固たる方程式はなく、解明する術がない……。日々、悩み続ける彼らには、視聴者が「吸血鬼」に見えるらしい。

 インターネットが急成長し、メディア激変の時代を迎えるなか、視聴者のテレビ離れが言われて久しい。視聴率の低迷はテレビ局にとって死活問題である。民放の屋台骨を支えるのは、スポットCMなどを通じてクライアントに「視聴率を売る」ことによってもたらされる収益だからだ。事業の多角化も進んでいるとはいえ、テレビ局が売上を伸ばすには、基本的に番組の視聴率を上げ、広告単価を上げるしかない。

 それが以前よりも難しくなった今、テレビの現場にはこれまで以上に「視聴率至上主義」が蔓延し、様々な試行錯誤が行われている。企業にとっては目先の利益を追求することも大事だが、なかにはそれが高じて、テレビマンのモラル低下、ひいては番組の質低下を招いている、本末転倒な事例も見られる。

 視聴者を「吸血鬼」呼ばわりする現場の空気が、悩み深い状況を物語っていると言えよう。

 長年にわたってテレビの現場を見続け、そこで働くテレビマンの声を聞いてきた筆者は、こうした現状に強い危機感を抱いている。テレビの現場で今、何か起きているのか。その実態をお伝えしよう。

 はじめに、意外性や場当たり的なことが視聴率に大きな影響を与えることがわかるエピソードを1つ。各局がニュース・情報番組でガチンコ勝負をする朝の時間帯で、ある「異変」が起きたのをご存じだろうか。

 東京エリアでこの時間帯、20年以上も民放4位に甘んじていたテレビ朝日が、業界トップをうかがうまで視聴率を伸ばしているのだ。実はその立役者は、かの有名な時代劇ドラマ『暴れん坊将軍』だという。

 同社の朝のニュース・情報番組『グッド!モーニング』(午前4時55分~8時)は2013年9月にスタートした。以前同社は、この時間帯に新聞記事紹介の先駆的番組として知られた『やじうまワイド』などの「やじうまシリーズ」を約30年放送していた。不振が続き、何をやっても視聴率が取れない状況を打破するため、慣れ親しんだ番組タイトルと決別した。

 それでもしばらく『グッド!モーニング』の視聴率は鳴かず飛ばずだった。そこで同社は『グッド!モーニング』が始まる前の午前4時台に、ライバルの日本テレビやTBS、フジテレビが放送しているのと同様に生番組を放送することを検討した。

 番組の視聴率は、直前の番組から引き継ぐ視聴率に影響を受ける。少しでも高い視聴率で次の番組の放送になだれ込むことに越したことはない。早朝とはいえ、1日の助走となる時間帯は重要だ。ライバル局は生番組でニュースを流し、早起きの視聴者を引き付け、その後に放送される番組の人気につなげている。

● 再放送の『暴れん坊将軍』に 威信をかけた生番組が負ける?

 テレビ朝日はといえば「ひまネタ」中心の収録番組だった。これを改善するための新番組案だったが、予算や人繰りなどの都合で生番組の計画は実現しなかった。そこで浮上したのが『おはよう!時代劇』(2015年3月スタート)と名付けた時代劇の再放送だった。この番組編成が示されたとき、「冗談だろ!?」と半ば呆れた声が局内に轟いたという。

 ところが、大方の見方に反してこれが当たった。布団の中で『暴れん坊将軍』の勇姿を見た高齢者は、布団を出てもそのまま『グッド!モーニング』を見続けるという流れができたのだ。

 時代劇の視聴率が他局を押しのけて堂々のトップになることもある。この時間に生番組を制作しているライバル局にとっては、おカネをかけて時代劇の再放送に負けるという、最も屈辱的な事態に陥った。時代劇からの視聴率を引き継いで、『グッド!モーニング』は主戦場となる朝7時台に10%を超える視聴率を記録する日もある。この時間帯は日本テレビの『ZIP!』、フジテレビの『めざましテレビ』の両巨頭が高視聴率を誇っているが、万年4位が首位レースに加わることとなり、大きな異変として一目置かれている。

何をやれば高視聴率が取れるのか。視聴者のテレビ離れが一段と進むなか、テレビ局の制作現場は日々悩み続けている。視聴率競争で消耗する現場の内情を斬る